「買った後、家計は本当に大丈夫だろうか」
住宅購入の不安は、たいていここに集まります。
この記事では、実際に52年分の家計をシミュレーションして、どの時点で何が起こるかをお見せします。
結果として分かったのは、心配していた場所と、実際に危ない場所が違うということでした。
- 教育費のピークは、貯蓄があれば乗り切れます
- 危ないのは、住宅ローンが残ったまま迎える老後でした
- 借入額を300万円変えるだけで結果が変わります
- 共働きの前提が崩れると、教育費のピーク前に貯蓄が尽きることも
こんな方に読んでほしい記事です
- 買った後の家計が回るか不安
- シミュレーションでどこを見ればいいか分からない
- 教育費と住宅ローンの重なりが心配
- 共働きを前提に借りようとしている
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
家計全体の視点から、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
【実例】5つの時点で見る

住宅購入後の家計は、購入直後だけを見ても分かりません。
子どもの成長、働き方の変化、車の買い替え、修繕、退職。
節目の時点を追って、貯蓄残高がどう動くかを見ます。
モデル家族(フィクションの例です)
夫38歳(手取り468万円)/妻36歳(手取り234万円)/子ども6歳と3歳
貯蓄500万円。3,500万円を借りてマンションを購入(金利1.0%・35年)
退職金1,000万円の見込み。65歳から年金を受給
※ 85歳は貯蓄がマイナス(不足)の状態です。グラフでは便宜上、ごく短い棒で表示しています。
この形を、時点ごとに読み解いていきます。
| 時点 | 夫の年齢 | 教育費 | 住居費 | その年の収支 | 貯蓄残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 購入直後 | 38歳 | 65万円 | 162万円 | +85万円 | 372万円 |
| 5年後 | 43歳 | 70万円 | 162万円 | +80万円 | 782万円 |
| 10年後 | 48歳 | 102万円 | 162万円 | +48万円 | 1,061万円 |
| 教育費のピーク | 53歳 | 219万円 | 162万円 | ▲93万円 | 968万円 |
| 退職時 | 60歳 | 0円 | 162万円 | +938万円 | 2,362万円 |
| 完済時 | 73歳 | 0円 | 43万円 | ▲51万円 | 590万円 |
| 85歳 | 85歳 | 0円 | 43万円 | ▲51万円 | ▲22万円 |
※ 60歳の収支に退職金1,000万円が含まれています。住居費は返済118.6万円+維持費43.4万円で、完済後は維持費のみになります。
購入直後|いちばん貯蓄が少ない時期です
貯蓄500万円から、諸費用143万円と引っ越し費用70万円を支払い、残りは372万円になっています。
ここが、35年で最も貯蓄が少ない時点です。
この時期に家電が壊れたり、収入が減ったりすると、対応が難しくなります。
生活防衛資金(生活費の6ヶ月分程度)を残せているかが、最初の確認ポイントです。
教育費のピーク|赤字になりますが、乗り切れます
夫53歳の年、教育費は219万円まで膨らみます。
上の子が大学2年生、下の子が大学に入学する年です。
この年の収支は93万円の赤字になります。
しかし、貯蓄残高は968万円あります。
それまでに貯めた分で、十分に吸収できる水準です。
赤字の年があること自体は、問題ではありません。
大切なのは、その赤字を残高で吸収できるかどうかです。
退職時|ここが資産のピークです
退職金1,000万円が入る60歳で、貯蓄は2,362万円まで増えます。
人生で最も資産が多い時点です。
そして、ここから先はひたすら減っていきます。
完済時と、その先|本当の危険はここでした
38歳で35年ローンを組むと、完済は73歳です。
年金生活に入ってからの8年間、住居費162万円を払い続けることになります。
完済した73歳の時点で、貯蓄は590万円。
そして85歳で、貯蓄が尽きます。
多くの方が心配するのは教育費ですが、実際に危ないのは老後でした。
教育費のピーク(53歳)は貯蓄968万円で吸収できます。一方、住宅ローンが73歳まで続くことで、年金生活に入ってからの家計が削られ続けます。シミュレーションを作る意味は、こうした「思っていた場所と違う」を見つけることにあります。
FP伊藤この表をお見せすると、多くの方が驚かれます。
「教育費が心配で相談に来たのに、問題は老後だったのですね」と。
しかも老後の問題は、購入前なら借入額の調整で解決できます。
だからこそ、物件を決める前にシミュレーションを作る意味があるのです。
3パターンで比べる


ひとつの前提だけで判断しないことが大切です。
借入額を変えた3パターンを、同じ条件で計算しました。
| 安心重視 | 標準 | 上限確認 | |
|---|---|---|---|
| 借入額 | 3,000万円 | 3,200万円 | 3,500万円 |
| 毎月の返済額 | 84,686円 | 90,331円 | 98,800円 |
| 教育費ピーク期の貯蓄 | 1,239万〜1,654万円 | 1,130万〜1,511万円 | 968万〜1,298万円 |
| 退職時(60歳)の貯蓄 | 2,751万円 | 2,596万円 | 2,362万円 |
| 90歳時点の貯蓄 | +315万円 | +78万円 | ▲277万円 |
| 判定 | 余裕があります | 90歳まで持ちます | 85歳で尽きます |
借入額を300万円減らすだけで、結果が変わりました。
毎月の返済額の差は、わずか8,469円です。
「上限確認」は、その金額まで買ってよいという意味ではありません。
価格を上げると何をあきらめることになるのか、その影響を見るために計算します。
- 安心重視を選ぶなら — 教育費のピーク期にも1,200万円以上の貯蓄が残り、老後も余裕があります。私立進学や収入減にも対応しやすくなります
- 上限を選ぶなら — 老後に貯蓄が尽きる計算です。繰り上げ返済で完済を早める、退職後も働く、といった対策が前提になります
前提が崩れたときに何が起こるか


シミュレーションで最も重要なのが、この確認です。
「うまくいく前提」だけで判断してはいけません。
共働きの前提が崩れた場合
借入3,500万円のまま、妻の収入だけを変えて計算しました。
見るのは、教育費のピーク期(夫50〜58歳)の最低貯蓄残高です。
妻が時短勤務になるだけで、教育費ピーク期の貯蓄は20万円まで減ります。
パート勤務なら、そもそも教育費のピークまで持ちません。
共働きを前提に借りるなら、片方の収入が減っても回るかを必ず確認してください。
産休・育休・時短勤務・転職・親の介護・本人の健康。働き方が変わる理由はいくらでもあります。「そうなる可能性があるなら、借入額を抑えておく」という判断が、後悔を防ぎます。
金利が上がった場合
変動金利で借りた場合、5年後に金利が2.0%になったとします。
| 金利1.0%のまま | 5年後に2.0%へ | |
|---|---|---|
| 5年後のローン残高 | 3,072万円 | 3,072万円 |
| 残り30年の返済額(月) | 98,800円 | 113,538円 |
| 月あたりの増加 | — | +14,738円 |
| 残り30年の総額の増加 | — | 531万円 |
※ 5年後の残高を、残り30年で返済し直した場合の試算です。
月14,738円の増加に耐えられるか。
これが、変動金利を選ぶかどうかの判断基準になります。
しかも、金利上昇と収入減が同時に起こる可能性もあります。
両方を重ねたパターンも、一度は計算しておいてください。
7つのチェックポイント


購入後の住居費は、返済額に維持費を足したものです。
マンションなら管理費・修繕積立金・固定資産税・火災保険で月36,200円程度。
一戸建てなら修繕費の積立を含めて月29,200円程度です。
この金額を返済額に加えた住居費が、手取りの25〜30%に収まるかを確認してください。
その年の収支が赤字になること自体は、問題ではありません。
赤字を貯蓄残高で吸収できるかどうかを見てください。
モデル家族では、53歳で93万円の赤字が出ますが、貯蓄が968万円あるため乗り切れます。
最も影響が大きい項目です。
妻が時短勤務になるだけで、教育費ピーク期の貯蓄は968万円から20万円まで減ります。
「片方の収入が減っても回るか」は、必ず計算してください。
変動金利を選ぶなら、2.0%・3.0%になった場合も試算します。
借入3,500万円が5年後に2.0%になれば、月14,738円の増加です。
この増加に耐えられるかが、金利タイプを選ぶ基準になります。
一戸建ては、修繕費を自分で積み立てる必要があります。
- 10〜15年目 — 外壁・屋根の塗装に100万〜200万円
- 15〜20年目 — 給湯器・水回りの設備交換に100万〜200万円
- 30年で合計600万円程度 — 月16,667円の積立が必要な計算です
マンションの場合は修繕積立金として自動的に徴収されますが、築年数が進むと値上がりするのが一般的です。
購入時の金額が35年続くとは限りません。
駅から離れた物件を選ぶ場合、車が前提になります。
車1台の維持費は年57万円程度(駐車場・保険・税金・車検・ガソリン・車両の減価)。
35年では2,011万円になり、物件価格の差を上回ることもあります。
これが最も見落とされる項目です。
38歳で35年ローンを組むと、完済は73歳。
年金生活に入ってからも、8年間は返済が続きます。
「退職時のローン残高はいくらか」「完済時に貯蓄はいくら残るか」を確認してください。
退職金で一括返済する前提なら、そのあとの老後資金がいくら残るかも見ておく必要があります。
私立を想定する場合の教育費は、こちらで学校種ごとに整理しています。


退職後の年金の受け取り方でも、収支は大きく変わります。


結果の読み方と、苦しくなったときの対処


結果を見るときの3つの注意
- 数字を当てにいかない — 35年先の収入も物価も、正確には予測できません。シミュレーションは「正解を当てる」ためではなく、「どの時期に注意が必要か」を知るために使います
- 楽観的な前提を置かない — 昇給・運用益・退職金を多めに見積もると、実態から離れます。特に運用益は、なくても成り立つ計画を先に作ってください
- 年に一度は作り直す — 収入・家族構成・金利・教育方針は変わります。制度も変わります(2024年10月に児童手当、2026年4月に高校の就学支援金が拡充されました)
赤字の年があっても、すぐに諦めない
シミュレーションで赤字の年が出ると、不安になるかもしれません。
単年の赤字は問題ではありません。
見るべきは、貯蓄残高がゼロを割らないかどうかです。
モデル家族でも、53歳の年は93万円の赤字ですが、貯蓄968万円で吸収できています。
もし「持たない」という結果が出たら
購入前なら、打てる手はいくつもあります。
購入後に苦しくなった場合も、対処はできます。
金融機関に相談すれば、返済期間の延長や一時的な返済額の減額(条件変更)に応じてもらえることがあります。
ただし、延滞してからでは選択肢が狭まります。
苦しくなりそうだと感じた時点で、早めに相談してください。
家計管理を一から始めたい方は、こちらもあわせてご覧ください。


まとめ|心配する場所が違うことがあります


家計シミュレーションは、将来を当てるためのものではありません。
どの時期に注意が必要かを知り、早めに手を打つための地図です。
そして今回のように、心配していた場所と、実際に危ない場所が違うこともあります。
想像ではなく、数字で確認する価値がここにあります。
わが家の数字で、シミュレーションしませんか
この記事の試算は、モデル家族の一例です。
収入・家族構成・教育方針・退職金が変われば、貯蓄残高の形もまったく変わります。
伊藤FPオフィスのマイホーム購入診断では、ご家庭の実際の数字で90歳までのキャッシュフロー表を作成します。
借入額を変えたパターン、収入が下がったパターン、金利が上がったパターン。
複数の前提を並べて、どの条件なら安心できるかを確認します。
保険も金融商品も販売していないため、特定の商品をおすすめすることはありません。
- 90歳までの貯蓄残高の推移を1枚の表に
- 借入額を変えた3パターンの比較
- 収入が下がった場合・金利が上がった場合の確認
- 教育費のピーク時・完済時の貯蓄残高の確認
- 維持費・車の費用まで含めた住居費の試算
- ご夫婦で見返せる資料をお渡しします
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
👨👩👧 ご相談事例・お客様の声
同じ悩みを持つ方が、どう解決したかをご覧いただけます
「妊娠を機に、これからの家計が気になる」
「教育費をどのような方法で準備したらいい?」
実際に伊藤FPオフィスへご相談いただいた方の、相談前のお悩みから相談後の変化までをご紹介しています。
掲載中のご相談事例
・30代ご夫婦(市川市・妊娠中)/これからの家計の見直し
・30代ご夫婦(市川市・お子様3歳)/教育資金の準備方法
・貯金がうまくできないというお悩み ほか
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. シミュレーションで赤字の年があると、買わないほうがよいですか?
単年の赤字は問題ではありません。モデル家族では、教育費のピーク(53歳)に93万円の赤字が出ますが、貯蓄が968万円あるため吸収できます。見るべきは、貯蓄残高がゼロを割らないかどうかです。
Q. 購入後の家計は何年先まで見ればよいですか?
90歳まで見てください。モデル家族では、教育費のピークは問題なく乗り切れる一方、貯蓄が尽きるのは85歳でした。子どもの独立までで区切ると、この問題が見えません。特に完済年齢が定年後になる場合は、老後まで含めた確認が欠かせません。
Q. どの時点を重点的に見ればよいですか?
5つの時点です。購入直後(貯蓄が最も少ない)、5年後、10年後、教育費のピーク(赤字を吸収できるか)、退職前後(ローン残高と老後資金)。この5つで貯蓄残高がどう動くかを追えば、危ない時期が見えてきます。
Q. 共働きの収入は、どこまで見込んでよいですか?
「片方の収入が減っても回るか」を必ず確認してください。モデル家族では、妻が時短勤務になると教育費ピーク期の貯蓄が968万円から20万円まで減り、パート勤務なら夫45歳で貯蓄が尽きます。産休・育休・転職・親の介護など、働き方が変わる理由はいくらでもあります。
Q. 変動金利と固定金利、どちらでシミュレーションすべきですか?
変動金利で借りる予定なら、上がった場合も必ず計算してください。借入3,500万円が5年後に2.0%になると、月14,738円の増加、残り30年で531万円の負担増になります。この増加に耐えられるかが、金利タイプを選ぶ基準です。
Q. 運用益は入れてもいいですか?
控えめに見積もってください。運用には元本割れのリスクがあり、必要なときに減っている可能性があります。まずは運用なしでも成り立つ計画を作り、運用の成果は「うまくいったらありがたい」という位置づけにするのが安全です。
Q. 「持たない」という結果が出たら、どうすればよいですか?
購入前なら、打てる手はいくつもあります。借入額を300万円減らすだけで結果が変わることもあります(返済額の差は月8,469円)。ほかにも、返済期間の見直し、固定費の削減(月23,000円程度の余地があることが多い)、働き方の前提の確認といった方法があります。
Q. 購入後に家計が苦しくなったら、どうすればよいですか?
早めに金融機関に相談してください。返済期間の延長や一時的な返済額の減額(条件変更)に応じてもらえることがあります。ただし延滞してからでは選択肢が狭まります。苦しくなりそうだと感じた時点で動くことが大切です。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。家計全体の視点から、住宅購入・ライフプラン設計・保険見直しの相談を行っています。シミュレーションでは、うまくいく前提だけでなく「前提が崩れたときに何が起こるか」を必ず確認しています。
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