「わが家の住宅予算は、いくらまでだろうか」
銀行や不動産会社に聞くと、「このくらいまで借りられます」という答えが返ってきます。
それは、家計から見た答えではありません。
この記事では、家計から逆算して予算を決める手順を、ひとつの実例で最後まで計算します。
年収600万円・貯蓄800万円のご家庭で、答えは3,255万円になりました。
- 予算は「借りられる額」ではなく住居費の上限から逆算します
- 住居費には、返済額のほかに維持費(月3.62万円)を含めます
- 年収600万円・貯蓄800万円なら、物件価格の上限は3,255万円
- 年収倍率7倍(4,200万円)で決めると、945万円の差が出ます
こんな方に読んでほしい記事です
- 住宅購入の予算をどう決めればいいか分からない
- 銀行に言われた借入可能額が本当に大丈夫か不安
- 年収から予算を計算する方法を知りたい
- 物件を見始める前に、上限を決めておきたい
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
家計全体の視点から、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
借りられる額から決めてはいけない理由

借入可能額は、金融機関の審査上の目安です。
家計にとって無理なく返せる金額とは、別のものです。
| 銀行が示す借入可能額 | 家計から見た予算 | |
|---|---|---|
| 見ている基準 | 年収に対する返済の割合 | 手取りに対する住居費の割合 |
| 使う金利 | 審査金利(一般に年3〜4%) | 実際に借りる金利 |
| 含めるもの | 住宅ローンの返済額のみ | 返済額+固定資産税・修繕費・管理費 |
| 考慮していないもの | 教育費・老後資金・収入の変化 | — |
住宅ローンは、長く続く固定費です。
購入後も、教育費・保険料・車の費用・固定資産税・修繕費・老後資金の準備が続きます。
予算は、借りられる額からではなく、家計から逆算して決めてください。
住居費は、返済額だけではありません
予算を考えるとき、最も見落とされやすいのがここです。
+ 固定資産税・都市計画税 + 火災保険 + 修繕費
+ 管理費・修繕積立金・駐車場代(マンションの場合)
実際の金額を確認しておきます。
| 返済額以外にかかる費用(月あたり) | マンション | 一戸建て |
|---|---|---|
| 管理費 | 11,503円 | — |
| 修繕積立金 | 13,054円 | 約16,700円(自分で積み立てます) |
| 固定資産税・都市計画税 | 約10,000円 | 約10,000円 |
| 火災保険・地震保険 | 約1,700円 | 約2,500円 |
| 合計 | 約36,200円 | 約29,200円 |
※ 管理費・修繕積立金は国土交通省「令和5年度マンション総合調査」の月額平均です。固定資産税は物件の評価額によって大きく異なります(ここでは年12万円と仮定)。一戸建ての修繕費は30年で600万円かかると仮定した目安です。
マンションなら月36,200円、一戸建てなら月29,200円。
この金額を返済額に足したものが、実際の住居費です。
【実例】5ステップで予算を出します

実際に、ひとつのご家庭で最後まで計算します。
モデル家族(フィクションの例です)
額面年収600万円(世帯)/貯蓄800万円/生活費は月30万円
マンションの購入を検討/他に借入なし
計算の流れを、もう一度まとめます。
| ステップ | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| ① 手取り | 600万円 × 78% | 468万円(月39.0万円) |
| ② 住居費の上限 | 月39.0万円 × 30% | 月11.70万円 |
| ③ 返済に回せる額 | 11.70万円 − 維持費3.62万円 | 月8.08万円 |
| ③’ 借入額 | 月8.08万円を金利1.0%・35年で換算 | 2,862万円 |
| ④ 頭金 | 800万 − 180万 − 100万 − 127万 | 393万円 |
| ⑤ 物件価格の上限 | 2,862万円 + 393万円 | 3,255万円 |
※ 手取りは額面の78%と仮定。金利年1.0%・35年・元利均等返済。諸費用127万円の内訳は、登記費用35万円+ローン事務手数料63万円(借入額の2.2%)+印紙税4万円+火災保険20万円+不動産取得税5万円です。中古物件では仲介手数料が加わり、諸費用はさらに増えます。
FP伊藤この5ステップで大切なのは、③の維持費を引くことです。
ここを飛ばすと、住居費11.70万円をそのまま返済に充てられると考えてしまいます。
その場合の借入額は4,144万円。実際の2,862万円と1,282万円も違います。
「思ったより買えない」と感じるのは、たいてい維持費を入れていないからです。
年収別の目安と、3パターンの比較


同じ計算を、年収別に行いました。
貯蓄800万円・マンション購入・住居費は手取りの30%という前提です。
| 額面年収 | 返済に回せる額(月) | 借入の上限 | 頭金 | 物件価格の上限 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 6.13万円 | 2,172万円 | 408万円 | 2,580万円 |
| 600万円 | 8.08万円 | 2,862万円 | 393万円 | 3,255万円 |
| 700万円 | 10.03万円 | 3,553万円 | 378万円 | 3,931万円 |
| 800万円 | 11.98万円 | 4,244万円 | 363万円 | 4,607万円 |
| 900万円 | 13.93万円 | 4,935万円 | 347万円 | 5,282万円 |
| 1,000万円 | 15.88万円 | 5,626万円 | 332万円 | 5,958万円 |
※ 貯蓄800万円・生活費月30万円・マンション(維持費3.62万円)・金利1.0%・35年での試算です。頭金が年収とともに減っているのは、借入額が増えるとローン事務手数料も増えるためです。
年収が100万円増えると、物件価格の上限は約675万円上がります。
3つのパターンで比べる
住居費を手取りの何%にするかで、答えは変わります。
年収600万円のご家庭で、3パターンを計算しました。
3パターンの差は675万円です。
どれを選ぶかは、ご家庭の優先順位で決めてください。
- 安全(25%)を選ぶなら — 教育費を私立まで想定している、共働きの継続に不安がある、老後資金をしっかり準備したい方に向いています
- 上限(30%)を選ぶなら — 共働きが安定して続く見込みがある、教育費は公立中心、住まいの優先度が高い方に向いています
30%はあくまで上限です。それを超えると、教育費か老後資金が犠牲になります。
住居費が手取りの35%を超えると、教育費のピーク時に貯蓄を取り崩す家計になりやすくなります。40%を超えると、老後資金の準備が止まります。30%という線は、越えないほうがよい基準としてお考えください。
よくある3つの失敗


「年収の5〜7倍まで」という目安を見かけます。
年収600万円なら、7倍で4,200万円です。
家計から計算した上限3,255万円との差は、945万円になります。
4,200万円の物件を買った場合(借入3,600万円)の住居費を確認します。
| 年収倍率7倍で決めた場合 | 家計から逆算した場合 | |
|---|---|---|
| 物件価格 | 4,200万円 | 3,255万円 |
| 借入額 | 3,600万円 | 2,862万円 |
| 毎月の返済額 | 101,623円 | 80,800円 |
| 維持費を含む住居費 | 137,823円 | 117,000円 |
| 手取りに占める割合 | 35% | 30% |
年収倍率は、家族構成も貯蓄額も教育方針も見ていません。
同じ年収600万円でも、子どもが1人か3人かで、無理のない金額はまったく違います。
目安としては使えますが、これで決めてはいけません。
これが最も多い誤解です。
家賃12万円の方が、月12万円を返済に充てられると考えた場合。
| 借入額 | |
|---|---|
| 月12万円をすべて返済に充てる想定 | 4,251万円 |
| 維持費3.62万円を引いた実際(月8.38万円) | 2,969万円 |
| 差 | 1,282万円 |
※ 金利1.0%・35年での試算です。
1,282万円の見込み違いです。
持ち家には、管理費・修繕積立金・固定資産税・火災保険がかかります。
賃貸では家賃に含まれていたものが、別途必要になるのです。
しかも、マンションの修繕積立金は築年数が進むと値上がりするのが一般的です。
購入時の金額のまま35年続くとは限りません。
貯蓄800万円を全額頭金に入れれば、借入は減ります。
しかし、諸費用も引っ越し代も払えなくなります。
| 貯蓄800万円の使い道 | 金額 | 頭金に使えるか |
|---|---|---|
| 生活防衛資金(生活費30万円×6ヶ月) | 180万円 | 使えません |
| 引っ越し・家具家電・カーテン | 100万円 | 使えません |
| 諸費用(登記・事務手数料・火災保険など) | 127万円 | 使えません |
| 頭金に回せる額 | 393万円 | 使えます |
貯蓄800万円のうち、頭金に使えるのは半分以下です。
さらに、契約時には手付金(物件価格の5〜10%)を立て替える必要があります。
住宅ローンは繰り上げ返済であとから減らせますが、一度払った頭金は戻せません。
生活防衛資金は、必ず残してください。
お子さんを私立に通わせる可能性があるなら、その金額も予算に入れてください。


予算を決めたあとの使い方


上限が決まったら、次は使い方です。
金利によって、借りられる額は変わります
同じ返済額でも、金利が変われば借入額の目安が変わります。
| 毎月の返済額 | 金利1.0%・35年 | 金利1.5%・35年 | 金利2.0%・35年 |
|---|---|---|---|
| 8万円 | 約2,834万円 | 約2,613万円 | 約2,415万円 |
| 10万円 | 約3,543万円 | 約3,266万円 | 約3,019万円 |
| 12万円 | 約4,251万円 | 約3,919万円 | 約3,623万円 |
| 14万円 | 約4,960万円 | 約4,572万円 | 約4,226万円 |
※ 元利均等返済・ボーナス払いなしでの概算です。実際の借入可能額は金融機関・審査条件・借入時期によって異なります。
変動金利を選ぶ場合は、上がったときの返済額も必ず確認してください。
借入2,862万円なら、金利が2.0%になると返済は月80,800円から94,807円へ、月14,017円増えます。
まとめ|買った後の家計から逆算してください


住宅購入の予算は、計算すれば出せます。
手取り → 住居費の上限 → 維持費を引く → 借入額 → 頭金 → 物件価格。
この順番さえ守れば、大きく外すことはありません。
そして、物件を見始める前に決めておくことが何より大切です。
気に入った物件に出会ってからでは、「この物件を買うにはどうすればよいか」という発想になってしまいます。
わが家の数字で、計算してみませんか
この記事の計算は、モデル家族の一例です。
お子さんの人数・教育方針・退職金の見込み・配偶者の働き方が変われば、答えも変わります。
伊藤FPオフィスのマイホーム購入診断では、ご家庭の数字で同じ計算を行い、さらに90歳までの貯蓄残高の推移で耐久チェックまで行います。
教育費のピーク時、金利が上がった場合、収入が下がった場合。
複数のパターンを並べて、無理のない上限を確認します。
不動産会社からの紹介料も、保険や金融商品の販売手数料も受け取っていません。
- ご家庭の数字での物件価格の上限の算出
- 安全・標準・上限の3パターン比較
- 90歳までの貯蓄残高の推移による耐久チェック
- 教育費のピーク時・金利上昇時・収入減の確認
- 頭金・諸費用・手元に残すお金のバランス設計
- ご夫婦で見返せる資料をお渡しします
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
👨👩👧 ご相談事例・お客様の声
同じ悩みを持つ方が、どう解決したかをご覧いただけます
「妊娠を機に、これからの家計が気になる」
「教育費をどのような方法で準備したらいい?」
実際に伊藤FPオフィスへご相談いただいた方の、相談前のお悩みから相談後の変化までをご紹介しています。
掲載中のご相談事例
・30代ご夫婦(市川市・妊娠中)/これからの家計の見直し
・30代ご夫婦(市川市・お子様3歳)/教育資金の準備方法
・貯金がうまくできないというお悩み ほか
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 年収から住宅購入予算を計算してもよいですか?
年収倍率は目安にはなりますが、これだけで決めないでください。年収600万円なら7倍で4,200万円ですが、家計から逆算した上限は3,255万円で、945万円の差が出ます。年収倍率は、家族構成も貯蓄額も教育方針も見ていません。同じ年収でも、子どもが1人か3人かで無理のない金額は変わります。
Q. 今の家賃と同じ返済額なら安全ですか?
安全ではありません。持ち家には管理費・修繕積立金・固定資産税・火災保険がかかり、マンションなら月36,200円程度になります。家賃12万円と同額を返済に充てられると考えると借入4,251万円ですが、維持費を引いた実際は2,969万円。1,282万円の見込み違いが出ます。
Q. 頭金は多いほどよいですか?
そうとは限りません。貯蓄800万円の場合、生活防衛資金180万円・引っ越し費用100万円・諸費用127万円を確保すると、頭金に回せるのは393万円です。さらに契約時には手付金(物件価格の5〜10%)を立て替える必要があります。住宅ローンは繰り上げ返済であとから減らせますが、頭金は戻せません。
Q. 住居費は手取りの何%が適正ですか?
25〜30%が目安です。年収600万円のご家庭では、25%なら物件2,580万円、28%なら2,985万円、30%なら3,255万円という結果になりました。教育費を私立まで想定している方や共働きの継続に不安がある方は25%寄り、住まいの優先度が高い方は30%まで、という考え方になります。35%を超えると、教育費のピーク時に貯蓄を取り崩しやすくなります。
Q. 変動金利で計算しても大丈夫ですか?
計算はできますが、上がった場合も必ず確認してください。借入2,862万円の場合、金利1.0%なら月80,800円ですが、2.0%になると94,807円で、月14,017円増えます。この増加に耐えられるかが判断の基準です。2026年8月時点の変動金利は年0.9〜1.2%程度が目安になります。
Q. 共働きなら世帯年収いっぱいまで借りてもよいですか?
おすすめしません。産休・育休・時短勤務・転職・親の介護で、どちらかの収入が下がる可能性があります。「片方の収入が減っても返せる水準か」を必ず確認してください。共働きを前提に借りるなら、住居費は手取りの25%寄りに抑えるほうが安全です。
Q. 予算を決める前に物件を見てもよいですか?
できれば、先に予算を決めてください。気に入った物件に出会うと、「この物件を買うにはどうすればよいか」という発想になります。1つ上の価格帯を見てしまうと、元の予算には戻りにくくなります。不動産会社に伝える金額を先に決めておくことをおすすめします。
Q. 中古物件の場合、計算は変わりますか?
諸費用が増えます。中古では仲介手数料(物件価格の3%+6万円に消費税)が加わるため、諸費用は物件価格の7〜8%程度になります。3,000万円の中古なら、諸費用だけで210万〜240万円です。そのぶん頭金に回せる金額が減るため、物件価格の上限も下がります。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。家計全体の視点から、住宅購入・ライフプラン設計・保険見直しの相談を行っています。予算のご相談では、返済額ではなく「維持費を含めた住居費」から逆算することをお伝えしています。
対応エリア:千葉県・東京都は対面相談可、全国オンライン対応

