「自営業だと住宅ローンは通らないって本当?」
フリーランス・個人事業主の方から、よくいただくご相談です。
結論から言うと、自営業でも住宅ローンは組めます。
ただし会社員とは審査の見られ方がまったく違います。
- 審査で見られるのは売上ではなく「所得」。経費を引いた後の数字です
- 経費を100万円多く計上すると、税負担は30〜40万円軽くなるが借入枠は約680万円減る
- フラット35なら青色申告特別控除65万円を足し戻して評価してもらえることが多い(借入枠が約442万円増える計算)
- 準備を始めるのは購入の3年前から。申告方針の切り替えに時間がかかります
この記事では、自営業・フリーランスの審査の実態と、通すための具体的な準備を試算とともに解説します。
こんな方に読んでほしい記事です
- 自営業・フリーランスで住宅購入を考えている
- 会社員と審査がどう違うのか知りたい
- 節税と住宅ローンの関係を理解したい
- 何年前から・何を準備すればいいか知りたい
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
銀行・保険会社とは利害関係のない中立な立場で、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
自営業の審査は何が違うのか|見られるのは「所得」

うちは売上が1,000万円あるので、会社員より借りられますよね?
FP伊藤そこが最初の落とし穴です。
審査で見られるのは売上ではなく、経費を引いたあとの所得なんです。
売上1,000万円でも、経費を引いた所得が300万円なら、審査上の年収は300万円として扱われます。
節税のための経費計上が、そのまま借入可能額を削ってしまう。
ここが自営業の住宅ローンの核心です。
| 比較項目 | 会社員 | 自営業・フリーランス |
|---|---|---|
| 審査で見られる数字 | 額面年収(源泉徴収票) | 所得(売上−経費・確定申告書) |
| 必要な実績期間 | 勤続1年程度から | 直近2〜3期分の確定申告書が基本 |
| 評価のされ方 | 直近の年収ベース | 3期平均、または最も低い年で評価されることも |
| 税金の扱い | 特に問われない | 納税証明書の提出が必須。滞納は致命的 |
| 書類の量 | 少ない | 多い(申告書・納税証明書・決算書など) |
「3期平均」と「最も低い年」で結果が大きく変わる
金融機関によって、3期分をどう評価するかが違います。
同じ3年分の所得でも、評価方法で借入枠がここまで変わります。
| 所得の推移(3期分) | 3期平均で評価 | 最も低い年で評価 | 差 |
|---|---|---|---|
| 450万・470万・480万(安定型) | 約3,175万円 | 約3,062万円 | 113万円 |
| 300万・400万・500万(右肩上がり) | 約2,722万円 | 約2,041万円 | 681万円 |
| 700万・300万・450万(変動型) | 約3,289万円 | 約2,041万円 | 1,248万円 |
※ 返済負担率25%・金利年1.5%・35年で計算した目安です。実際の審査基準・借入可能額は金融機関により異なります。
だから「所得の安定」が重視されます
変動型の例では、評価方法によって1,248万円もの差が出ます。
売上の波が大きい業種ほど、低いほうで見られるリスクを想定しておく必要があります。
逆に言えば、多少所得が低くても安定していることが強みになります。
【試算】所得でいくら借りられるのか


申告所得ごとの借入可能額の目安をまとめました。
| 申告所得 | 年間の返済額(負担率25%) | 毎月の返済額 | 借入額の目安 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 75万円 | 6.2万円 | 約2,040万円 |
| 400万円 | 100万円 | 8.3万円 | 約2,720万円 |
| 500万円 | 125万円 | 10.4万円 | 約3,400万円 |
| 600万円 | 150万円 | 12.5万円 | 約4,080万円 |
| 700万円 | 175万円 | 14.6万円 | 約4,760万円 |
| 800万円 | 200万円 | 16.7万円 | 約5,440万円 |
※ 金利年1.5%・35年・元利均等返済、返済負担率25%として計算した目安です。実際の借入可能額は金融機関の審査基準・金利により異なります。
会社員の「年収」と同じ感覚で見ると、少なく感じるかもしれません。
しかしこれが、自営業の審査における現実の数字です。
青色申告特別控除は「足し戻し」てもらえることがある
ここに救いがあります。
青色申告特別控除(最大65万円)は、実際にお金が出ていく経費ではありません。
そのため所得に足し戻して評価してくれる金融機関があります。
フラット35では、この扱いが一般的です。
| 申告所得 | 足し戻し後の評価額 | 借入枠(足し戻しなし) | 借入枠(足し戻しあり) | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 365万円 | 約2,040万円 | 約2,480万円 | +442万円 |
| 400万円 | 465万円 | 約2,720万円 | 約3,160万円 | +442万円 |
| 500万円 | 565万円 | 約3,400万円 | 約3,840万円 | +442万円 |
※ 金利年1.5%・35年・返済負担率25%で計算した目安です。足し戻しの扱いは金融機関により異なります。減価償却費も同様に加算される場合があります。
同じ申告内容でも、評価方法が違うだけで約440万円の差が生まれます。
「控除前の実質所得で見てくれる金融機関を選ぶ」ことが、自営業の第一の戦略になります。
【最重要】節税と借入枠のトレードオフ


自営業の方が最も迷うのが、ここです。
経費を多く計上すれば税金は減りますが、その分だけ借入枠も減ります。
具体的に、経費を100万円多く計上した場合(所得500万円→400万円)を比べてみます。
約30〜40 万円/年
約680 万円
※ 所得税20%・住民税10%・国民健康保険料約10%と仮定した概算です。借入枠は金利年1.5%・35年・返済負担率25%で試算。税率は所得により変わります。
1年あたり30〜40万円の節税と引き換えに、借りられる額が約680万円減る計算です。
希望の物件に届かなくなるなら、この節税は割に合いません。
ただし、これは「購入予定がある場合」の話です。
購入の予定がないうちは、適正な範囲での節税を続けて問題ありません。切り替えるタイミングが重要です。
やってはいけないこと
借入枠を増やしたいからといって、実態のない所得を申告することです。
これは適正な申告とは言えず、税務上の問題になります。
やるべきは「過度な経費計上をやめて、実態に合わせる」ことです。
具体的な申告・経費計上の判断は、必ず税理士にご相談ください。



ご相談でいちばん多いのが、「節税しすぎて借りられない」というご相談です。
毎年きちんと節税されてきた方ほど、この壁にぶつかります。
ただ、これは事前に分かっていれば必ず対処できる問題です。
「数十万円の節税」と「数千万円の借入」を天秤にかける話ですから、購入予定があるなら早めに申告方針を切り替えましょう。
税理士さんにも「3年後に家を買いたい」と伝えておくと、方針を合わせてもらえます。
購入3年前から始める準備計画


自営業の住宅購入は、思い立ってすぐには進みません。
3期分の申告書が審査対象になるため、逆算して準備します。
一時的に税負担は増えますが、購入という目的から見れば必要な投資です。
※ 具体的な申告・経費計上の判断は税理士にご相談ください。
フラット35という有力な選択肢


自営業の住宅ローンで、まず検討したいのがフラット35です。
民間の住宅ローンと比べて、自営業に開かれた設計になっています。
| 比較項目 | 民間の住宅ローン | フラット35 |
|---|---|---|
| 必要な申告書 | 直近2〜3期分が基本 | 直近1期分で審査される場合がある |
| 営業年数の要件 | 3年以上を求められることが多い | 明確な年数要件がない |
| 青色申告特別控除 | 扱いは金融機関による | 所得に足し戻して評価するのが一般的 |
| 金利 | 変動なら低め | 全期間固定でやや高め |
| 団信 | 加入が必須のことが多い | 任意(加入しない選択もできる) |
| 審査の重点 | 総合的な信用力 | 物件の技術基準への適合も重視 |
※ 審査条件・提出書類は金融機関および商品により異なります。詳細は各取扱窓口でご確認ください。
フラット35が向いているケース
開業から日が浅く、3期分の申告書がそろっていない方。
青色申告特別控除を使っていて、申告所得が実態より低く出ている方。
健康上の理由で団信に加入できない方(フラット35は任意加入)。
ただし団信に入らない場合は、別途生命保険で備える必要があります。
審査に必要な書類|早めに揃えておく
自営業は会社員より書類が多くなります。
- 確定申告書(直近2〜3期分) — 税務署の受付印、またはe-Taxの受信通知が付いたもの
- 納税証明書 — 税務署で取得(その1・その2など)
- 決算書 — 法人の場合は直近2〜3期分
- 事業の概要がわかる資料 — 業種・取引先・事業歴
- 本人確認書類・物件資料 — 会社員と共通
確定申告書の控えは、受付印がないと使えないことがあります。
紛失した場合は税務署で開示請求できますが時間がかかります。毎年の控えは必ず保管してください。
開業したばかり・法人成り直後はどうする


事業歴が浅い場合の進め方を、状況別に整理します。
- 開業1〜2年目 — 民間ローンはかなり厳しくなります。フラット35を軸に検討してください
- 法人成り直後 — 個人事業時代からの通算で事業歴を見てくれる金融機関もあります。申込時に説明資料を用意しましょう
- 配偶者が会社員 — 配偶者を主債務者にする、収入合算するという組み方も有力です
- 迷ったら待つ — 3期分の申告書がそろうまで待つのが、結局は近道になります
事業が軌道に乗る前の無理な購入は、事業資金と住宅費の共倒れを招きます。
事業の安定が先、購入はその実績の上に。
これが自営業の鉄則です。
住宅購入の全体像は、こちらでまとめています。


まとめ|自営業の住宅ローンは準備が9割


自営業・フリーランスの住宅ローンは、「通るか通らないか」ではなく「どう準備するか」の勝負です。
3年前から計画すれば、会社員と遜色ない条件での購入も十分に可能です。
働けなくなったときの備えについては、こちらで解説しています


事業と家計をまとめて、購入までの道筋を作りませんか
自営業の住宅購入は、事業計画と家計計画の両輪で考える必要があります。
伊藤FPオフィスでは、収入の変動を織り込んだ資金計画をお作りしています。
「まだ購入は先だが、今から準備したい」という段階のご相談も歓迎です。
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 売上1,000万円ありますが、所得200万円だと借りられませんか?
審査上の年収は200万円として扱われるため、借入可能額は大きく制限されます(金利年1.5%・35年・負担率25%なら約1,360万円が目安)。希望額を借りるには、購入の2〜3年前から所得を実態に合わせて申告し直す計画が必要です。節税と借入のバランスは、税理士とFPに相談しながら設計しましょう。
Q. 青色申告の各種控除は審査にどう影響しますか?
青色申告特別控除(最大65万円)は、所得に足し戻して評価してくれるケースがあります。フラット35ではこの扱いが一般的です。減価償却費も同様に加算対象になる場合があります。控除前の実質所得で見てくれる金融機関を選ぶことが、借入枠を確保するポイントになります。
Q. 1期分の申告書しかありませんが、待つしかないですか?
フラット35なら直近1期分の申告書で審査を受けられる場合があります。また配偶者が会社員なら、配偶者を主債務者にする方法も有力です。どうしても難しければ、あと1〜2期の実績を作る間に頭金を貯めるほうが、結果的に良い条件で借りられます。
Q. 自営業でも住宅ローン控除は受けられますか?
受けられます。会社員のような年末調整がないため、毎年の確定申告で控除を申請する形になります。いつもの申告に住宅ローン控除の項目を追加するだけなので、手間の増加はわずかです。
Q. 事業用の借入があると不利になりますか?
返済負担率の計算に含まれるため、借入枠は圧縮されます。運転資金の借入がある場合は、可能な範囲で残高を減らしてから審査に臨むと有利です。また事業用と生活用の口座を分けておくと、家計の状況を説明しやすくなります。
Q. 法人の代表者です。役員報酬で審査されますか?
法人の代表者は、役員報酬の額で審査されるのが基本です。ただし会社の決算内容もあわせて確認されるため、法人が赤字だと厳しくなります。役員報酬を低く設定して節税している場合は、個人事業主と同じジレンマが生じます。購入予定があるなら、報酬額の設定を早めに見直しましょう。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。金融商品の販売を行わない中立な立場で、住宅購入・保険見直し・ライフプラン設計の相談を行っています。自身も個人事業主として独立した経験から、自営業ならではの収入変動を踏まえた資金計画をご提案しています。
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