「住宅ローンの残高が2,000万円。手元にまとまったお金ができたら、繰り上げ返済すべきか、投資に回すべきか」
返済中の方から、非常によくいただくご質問です。
よく「投資のほうが増えるから投資が有利」と説明されます。
この比べ方には、抜けている要素があります。
繰り上げ返済をすれば、完済が早まった分だけ返済額が家計に戻ってくるからです。
そこまで含めて計算すると、判断の分かれ目はひとつだけになります。
- 分かれ目は「運用利回りがローン金利を超えるか」だけです
- 繰り上げ返済は約121万円が確定する選択(100万円を投じた場合)
- 住宅ローン控除が残っていると、効果は実質年0.3%相当まで下がります
- 金利が3%まで上がると、繰り上げ返済が年3%の投資に並びます
こんな方に読んでほしい記事です
- 住宅ローン返済中で、手元にまとまった資金がある
- 繰り上げ返済と新NISAなどの投資で迷っている
- 住宅ローン控除がまだ残っている
- 変動金利で、これから金利が上がるのが不安
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
家計全体の視点から、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
【試算】25年後にいくら残るかで比べる

残高2,000万円・金利年1.0%・残り25年のローンで計算します。
月々の返済額は75,374円です。
ここに手元の100万円を投じる場合、選択肢は2つあります。
- A 繰り上げ返済する — 利息が27.5万円軽減され、完済が16ヶ月早まります
- B 投資に回す — 100万円をそのまま運用します
よくある比較は、ここで止まります。
「Aは確実な27.5万円、Bは年3%なら25年で109万円増える。だからBが有利」。
しかしAには、続きがあります。
完済が16ヶ月早まるということは、その16ヶ月ぶんの返済額75,374円が、家計に戻ってくるということです。
合計120.6万円。これを運用すれば、Aにも資産が積み上がります。
そこまで含めて、25年後の手元資産で比べました。
| 運用の結果 | A 繰り上げ返済した場合 | B 投資に回した場合 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 年3%で回った | 123万円 | 209万円 | Bの勝ち(+86万円) |
| 年1%で回った | 121万円 | 128万円 | ほぼ互角(+7万円) |
| 年0%だった(増えなかった) | 121万円 | 100万円 | Aの勝ち(+21万円) |
※ Aは完済後に浮いた返済額(月75,374円×16ヶ月)を同じ利回りで運用した場合の試算です。運用に関する数字は想定利回りによるもので、将来の成果を保証するものではありません。
Aの金額が、運用結果にほとんど左右されていない点に注目してください。
Aで戻ってくるお金は、25年目に近い最後の16ヶ月に現金として入ってきます。
運用にさらされる期間が短いため、相場が下がった場合でも約121万円はほぼ確保されます。
一方Bは、相場が下がればそのまま目減りします。
分かれ目は、運用利回りがローン金利1.0%を超えるかどうかだけでした。
これは偶然ではありません。
繰り上げ返済とは、「ローン金利と同じ利回りで、確実に運用すること」だからです。
金利1.0%のローンを繰り上げ返済するのは、年1.0%の運用が確定するのと同じ意味を持ちます。
だから比較すべきなのは、「あなたが期待する運用利回り」と「あなたのローン金利」です。
FP伊藤この整理をお伝えすると、多くの方が納得されます。
「投資のほうが増えるらしい」という漠然とした印象で判断するのではなく、ご自身のローン金利という具体的な基準ができるからです。
金利0.5%で借りている方と、2.5%で借りている方では、答えが変わって当然なのです。
まずは、ご自身の金利を確認するところから始めてください。
繰り上げ返済の金額を変えるとどうなるか
同じ条件で、繰り上げ返済する金額を変えた場合の効果です。
| 繰り上げ返済する額 | 利息の軽減額 | 短縮される期間 |
|---|---|---|
| 100万円 | 27.5万円 | 16ヶ月 |
| 200万円 | 53.3万円 | 33ヶ月 |
| 300万円 | 77.3万円 | 50ヶ月 |
| 500万円 | 120.4万円 | 82ヶ月(6年10ヶ月) |
※ 残高2,000万円・金利年1.0%・残り25年・期間短縮型での試算です。
金額に対して、効果はほぼ比例します。
「まとめて返さないと意味がない」ということはありません。
住宅ローン控除が残っていると効果は下がる


ここが、繰り上げ返済で最も見落とされやすい点です。
住宅ローン控除(毎年のローン残高に応じて税金が戻る制度)は、年末のローン残高の0.7%が戻る仕組みです。
繰り上げ返済で残高を減らすと、戻ってくる税金も減ります。
100万円を繰り上げ返済すると、年末残高が100万円減るため、控除が年7,000円減ります。
控除があと10年残っていれば、7万円の減少です。
万円
万円
控除があと10年残っている場合
※ 控除があと5年なら3.5万円の減少で、実質24.0万円になります。
率で考えると、より分かりやすくなります。
= 繰り上げ返済の実質的な効果 年0.3%
控除期間中の繰り上げ返済は、年0.3%の運用と同じということです。
これなら、待つという選択にも十分な理由があります。
- 控除期間中は繰り上げ返済を急がず、資金は手元に置くか運用に回す
- 控除が終わったタイミングで、まとめて繰り上げ返済を検討する
- ローン金利が高い場合は、控除期間中でも繰り上げ返済が有利になることがある
ただし、この計算が当てはまらない方もいます。
住宅ローン控除は、納めている税金の範囲でしか戻りません。納税額が少なくて控除枠を使い切れていない方は、繰り上げ返済しても控除額は減らないため、目減りは起こりません。源泉徴収票の所得税額と、控除の適用額を確認してみてください。
金利が上がると、答えは変わる


変動金利で借りている方にとって、この点は重要です。
金利が上がるほど、繰り上げ返済の効果は大きくなります。
同じ100万円の繰り上げ返済でも、金利によってこれだけ違います。
※ 残高2,000万円・残り25年・期間短縮型での利息軽減額の試算です。
金利3%まで上がると、確実な繰り上げ返済が年3%の投資(25年で+109万円)にほぼ並びます。
同じ期待値なら、確実なほうを選ぶ理由があります。
2026年8月時点で、変動金利は年0.9〜1.2%程度まで上昇しています。
日本銀行の政策金利は1.00%となりました。
これから先も上がるかどうかは誰にもわかりませんが、「金利が◯%になったら繰り上げ返済する」というご自身のルールを決めておくと、慌てずに対応できます。
どちら向きかを確認しましょう
どちらとも言えない場合は、「半分ずつ」も現実的な答えです。
手元資金の半分を繰り上げ返済、半分を積立投資に回す。
確実な効果と期待リターンを組み合わせる方法で、実際のご相談でもこの形に落ち着くことがよくあります。
期間短縮型と返済額軽減型、どちらを選ぶか


繰り上げ返済には2つのタイプがあります。
同じ100万円でも、効果はまったく違います。
27.5 万円
完済が16ヶ月早まる
月々の返済額は変わらない
13.9 万円
月々の返済が3,769円減る
完済時期は変わらない
利息の軽減額はおよそ 2倍 の差になります
※ 残高2,000万円・金利年1.0%・残り25年に100万円を繰り上げ返済した場合の試算です。
金額だけを見れば期間短縮型が有利です。
ただし、返済額軽減型が向いている場面もあります。
- 期間短縮型が向いている方 — 今の返済に余裕があり、完済を早めて総額を減らしたい。定年前に完済したい
- 返済額軽減型が向いている方 — これから教育費が増える。収入が減る予定がある。毎月の家計にゆとりを作りたい
「教育費のピークを乗り切るために月々を軽くする」という使い方は、金額に表れない価値があります。
総額だけで判断しないでください。
判断の前に確認したい3つのこと


繰り上げ返済も投資も、その前に確認すべきことがあります。
繰り上げ返済は、団信という保障を手放す行為でもあります。
手元に100万円を残しておけば、万一のときローンは団信で消え、その100万円は家族に残ります。繰り上げ返済してしまうと、残るのはローンが100万円減った家だけです。健康に不安がある方は、この点も判断材料に加えてください。
この3つを確認したうえで、余裕資金の使い道として繰り上げ返済と投資を比べる。
この順番が、家計を守る考え方です。
インフレと資産運用の関係は、こちらでまとめています。


まとめ|比べるのは「運用利回り」と「ローン金利」


繰り上げ返済と投資は、どちらかが絶対の正解ということはありません。
ご自身のローン金利という基準さえ持てば、判断は難しくありません。
そして金利は変わります。
一度決めたら終わりではなく、年に一度は見直す機会を作ってください。
わが家の条件で試算してみませんか
この記事の試算は、残高2,000万円・金利1.0%・残り25年という条件のものです。
金利・残高・残り期間・控除の残り年数が変われば、答えも変わります。
伊藤FPオフィスでは、住宅購入前の方だけでなく、返済中の方の家計相談もお受けしています。
繰り上げ返済・投資・半分ずつの3パターンを同じ条件で並べて、教育費や老後資金まで含めたキャッシュフロー表で確認します。
金融商品の販売を行っていないため、投資に誘導することも、繰り上げ返済をすすめることもありません。
- ご自身の金利・残高・残期間での繰り上げ返済効果の試算
- 繰り上げ返済・投資・半分ずつの3パターン比較
- 住宅ローン控除の残り期間を踏まえた実施タイミングの整理
- 金利が上がった場合の返済額シミュレーション
- 教育費・老後資金を含めたキャッシュフロー表の作成
- 団信と生命保険の重複の確認
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
👨👩👧 ご相談事例・お客様の声
同じ悩みを持つ方が、どう解決したかをご覧いただけます
「妊娠を機に、これからの家計が気になる」
「教育費をどのような方法で準備したらいい?」
実際に伊藤FPオフィスへご相談いただいた方の、相談前のお悩みから相談後の変化までをご紹介しています。
掲載中のご相談事例
・30代ご夫婦(市川市・妊娠中)/これからの家計の見直し
・30代ご夫婦(市川市・お子様3歳)/教育資金の準備方法
・貯金がうまくできないというお悩み ほか
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 結局、繰り上げ返済と投資はどちらが得ですか?
期待する運用利回りが、ご自身のローン金利を超えるかどうかで決まります。繰り上げ返済は「ローン金利と同じ利回りで確実に運用する」のと同じ効果だからです。金利1.0%なら、年1%を超える運用ができれば投資が有利、下回れば繰り上げ返済が有利という関係になります。ただし住宅ローン控除が残っている期間は、実質的な効果が年0.3%相当まで下がります。
Q. 残高2,000万円のうち、いくらまで繰り上げ返済していいですか?
金額よりも「残す資金」から逆算してください。生活防衛資金(生活費の6ヶ月分程度)と、10年以内に使う予定のお金(教育費・車の買い替えなど)を除いた分が上限の目安です。繰り上げ返済したお金は引き出せないため、手元資金を削りすぎないことが最優先です。
Q. 期間短縮型と返済額軽減型、どちらがいいですか?
利息の軽減額が大きいのは期間短縮型です。100万円の繰り上げ返済なら、期間短縮型27.5万円に対して返済額軽減型13.9万円とおよそ2倍の差になります。一方、返済額軽減型は月々の返済が3,769円減るため、家計にゆとりが生まれます。これから教育費が増える方や、収入が減る予定がある方には返済額軽減型が向いています。
Q. 変動金利が上がってきたら、繰り上げ返済すべきですか?
金利が上がるほど繰り上げ返済の効果は大きくなるため、優先度は上がります。残高2,000万円・残り25年で100万円を繰り上げた場合、金利1.0%なら27.5万円の軽減ですが、2.0%なら62.3万円、3.0%なら106.1万円になります。ただし手元資金を減らしすぎないことが前提です。「金利が◯%になったら繰り上げ返済する」というルールを事前に決めておくと安心です。
Q. 住宅ローン控除が終わるまで待ったほうがいいですか?
多くの場合、そのほうが有利です。控除期間中の繰り上げ返済は、利息が減る一方で戻る税金も減るため、実質的な効果はローン金利から控除率0.7%を引いた分になります。金利1.0%なら年0.3%相当です。ただし納税額が少なくて控除枠を使い切れていない方は目減りが起きないため、この限りではありません。
Q. 繰り上げ返済で団信の保障が減るとはどういうことですか?
団信は、亡くなったときに残りのローンをゼロにする保険です。つまりローン残高が大きいほど、保障される額も大きくなります。100万円繰り上げ返済すると、その分だけ保障も100万円減ります。手元に100万円を残しておけば、万一のときローンは団信で消えて100万円は家族に残りますが、繰り上げ返済してしまうとそれがなくなります。
Q. 投資はやったことがなくて不安です
無理に始める必要はありません。投資は「余裕資金で・長期で・分散して」が大前提であり、向き不向きもあります。繰り上げ返済という確実な選択肢があるので、ご自身が安心して続けられる方法を選んでください。特に運用できる期間が10年未満の方は、繰り上げ返済のほうが向いています。
Q. 手元資金を半分ずつに分けるのはありですか?
現実的な選択肢のひとつです。確実な効果と期待リターンを組み合わせられるうえ、「どちらかに全部賭けなくて済む」という安心感もあります。実際のご相談でも、この形に落ち着くことがよくあります。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。家計全体の視点から、住宅購入・住宅ローンの見直し・ライフプラン設計の相談を行っています。繰り上げ返済のご相談では、「投資と比べてどちらが得か」をご自身のローン金利という基準で判断できる形に整理してお伝えしています。
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