マイホームを買ったばかりなのに、転勤の辞令が出た。
転勤のある会社にお勤めの方にとって、決して他人事ではありません。
単身赴任か、家族で移るか。家は空けるか、貸すか、売るか。
この4つの選択肢は、3年間で575万円もの差になります。
- 3年間の総コストは売却237万円・賃貸397万円・単身赴任675万円・空き家812万円
- 最も高いのは「空き家にする」。いつでも戻れる安心には、それだけの費用がかかります
- 住宅ローン控除は期間が延長されません。3年停止すると63万円を失います
- 売却するなら住まなくなってから3年目の年末が実質的な期限です
この記事では、4つの選択肢を金額で比較したうえで、住宅ローン控除と税金の扱いを整理します。
こんな方に読んでほしい記事です
- 住宅を購入した後に、転勤になる可能性がある
- 単身赴任と家族帯同、どちらがよいか迷っている
- 家を賃貸に出した場合の住宅ローンの扱いを知りたい
- これから住宅購入を検討していて、転勤のリスクも踏まえたい
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
銀行・保険会社とは利害関係のない中立な立場で、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
転勤が決まったら、まず確認する4つのこと

いきなり「売るか貸すか」を考える前に、判断の材料をそろえます。
転勤の期間別・現実的な選択肢
| 転勤の期間 | 現実的な選択肢 | 理由 |
|---|---|---|
| 〜1年程度 | 単身赴任 または 空き家 | 短期なら、借り手を探すより管理するほうが現実的です |
| 1〜3年程度 | 単身赴任 または 賃貸(定期借家) | 戻る前提なら、期限を区切って貸す方法が有効です |
| 3年以上・期間未定 | 賃貸 または 売却 | 空き家の維持費と劣化のリスクが大きくなります |
| 戻る見込みなし | 売却 | 使わない家を持ち続ける費用とリスクを解消できます |
※ 一般的な目安です。ご家族の状況や会社の制度によって最適な選択は変わります。
【試算】4つの選択肢を3年間の総コストで比べる

メリット・デメリットを並べるだけでは、判断できません。
実際に金額を計算してみます。
次の条件で、3年間の総コストを比較しました。
- 物件3,500万円(購入から2年)/ローン残高3,300万円/月々の返済9.92万円
- 転勤先の住まい — 単身なら月6万円、家族で移るならファミリー向け月12万円
- 会社の家賃補助 — 月5万円
- 自宅を貸す場合の家賃相場 — 月13万円
- 住宅ローン控除 — 年21万円
※ 3年間の総コストの試算です。前提条件によって金額は大きく変わります。
注目していただきたいのが、「空き家にする」が最も高いことです。
いつでも戻れる安心を選ぶと、費用は最もかかります。
内訳を見てみます
※ 家賃収入は不動産所得として申告しますが、減価償却費とローンの利息を経費にできるため、計算上は赤字になり所得税がかからないケースも多くあります。
※ ローンの返済と固定資産税がなくなるため、支出は最も軽くなります。ただし購入時に払った諸費用210万円は戻らず、家という資産も手放すことになります。
金額だけでは決められません。
①は家族が離れて暮らすことになります。②はいつでも戻れる安心が買えます。③は貸主としての手間とリスクを負います。④は家を手放します。それぞれに、金額に表れない代償があります。
FP伊藤ご相談では、まずこの4つを金額で並べてお見せします。
多くの方が「空き家がいちばん高いんですね」と驚かれます。
誰も住んでいなくても、ローンも税金もかかり続けるからです。
そのうえで、家族の事情と照らして決めていただいています。
住宅ローン控除は「期間が延長されない」


転勤で最も多い質問が、住宅ローン控除の扱いです。
ケース別に整理します。
| ケース | 転勤している間 | 戻ってきた後 |
|---|---|---|
| 単身赴任(家族が住み続ける) | 継続して受けられます | そのまま継続 |
| 家族で引っ越し・空き家 | 一時停止 | 再入居した年から再開 |
| 家族で引っ越し・賃貸に出す | 一時停止 | 再入居の翌年から再開 |
※ 再入居した年にまだ他の人へ賃貸している場合は、その翌年からの再開になります。詳しい要件は税務署または税理士にご確認ください。
ここで見落とされやすいことがあります。
控除の期間は、延長されません。
63万円を失います(年21万円×3年分)
※ 借入残高3,000万円・控除率0.7%で計算した場合の試算です。
再入居しても、控除の期間が後ろにずれるわけではありません。
止まっていた3年分は、そのまま失われます。
だからこそ、単身赴任の価値は金額以上に大きくなります。
先ほどの試算で単身赴任のコストが675万円だったのは、この控除63万円を差し引いた後の金額です。
転勤が決まったら、税務署への届出を忘れずに
家を空けることになったら、「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」などの手続きが必要です。
この届出をしておかないと、戻ってきたときに控除を再開できません。
また、再開が認められるのは「会社からの転任の命令など、やむを得ない事情」による場合に限られます。
自己都合の転居では再開できませんので、辞令が出た時点で税務署に確認しておいてください。
賃貸に出すときの3つの注意点


金額の面では有力な選択肢ですが、押さえておくべき点が3つあります。
あわせて、次の点も確認しておきましょう。
- 火災保険の内容 — 賃貸に出すと契約内容の変更が必要になる場合があります
- 管理会社の選定 — 遠方から自分で管理するのは現実的ではありません。委託料は家賃の5%前後です
- マンションの場合は管理規約 — 賃貸を制限している場合があります
- 空室のリスク — 借り手がつかない期間も、ローンの返済は続きます
売却するなら「3年目の年末」が期限です


売却を選ぶ場合、必ず知っておいていただきたい期限があります。
居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除です。
マイホームを売って利益が出た場合、通常は約20%の税金がかかります。
けれども3,000万円までの利益は、この特別控除で非課税にできます。
転勤で家を空けた場合、この控除には期限があります。
※ 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の要件です。他の特例との併用制限や、細かい要件があります。適用の可否は必ず税務署または税理士にご確認ください。
「3年目の年末」が、貸すか売るかを決める実質的な期限になります。
とりあえず賃貸に出して様子を見る、という判断は合理的です。ただし3年を過ぎると、売却時の税負担が大きく変わります。転勤が長引きそうだと分かった時点で、この期限を意識して判断してください。



この期限をご存じない方が、本当に多いのです。
5年、6年と貸し続けてから売却して、税金の請求に驚かれる。
しかも売却益が出ているほど、影響は大きくなります。
転勤が決まったら、カレンダーに「3年目の12月」と書き込んでおいてください。
売却で気をつけたいこと
購入から数年で売る場合、注意点があります。
- 購入時の諸費用は戻りません — 3,500万円の物件なら210万円前後。これは回収できない費用です
- 売却にも諸費用がかかります — 仲介手数料・印紙税・抵当権抹消で117万円前後
- ローン残高を下回ると売れません — 差額を現金で用意する必要があります
- 同じ家は取り戻せません — 転勤先が気に入らず戻りたくなっても、後戻りはできません
購入前に、転勤の可能性を織り込む


ここまでは、転勤が決まってからの話でした。
転勤のある会社にお勤めなら、購入前の段階で織り込んでおくことができます。
| 確認しておくこと | なぜ重要か |
|---|---|
| 賃貸に出しやすい立地か | 駅から近く、賃貸の需要があるエリアかどうか。貸せる家かどうかで、選択肢の幅がまったく変わります |
| 二重生活のコストに耐えられるか | 単身赴任なら年間200万円前後の追加支出。この負担に家計が耐えられる借入額かを確認しておきます |
| 会社の制度 | 持ち家手当・単身赴任手当・家賃補助の有無。月5万円の補助があるかどうかで3年間に180万円の差になります |
| 数年で売っても損が出にくい物件か | 値下がりしにくい立地なら、売却という選択肢が現実的になります |
転勤の可能性があるからといって、住宅を購入してはいけないということではありません。
選択肢を持てる物件を選び、どの選択肢を取っても耐えられる借入額にしておく。
これができていれば、辞令が出ても慌てずに済みます。
住宅購入の流れとお金の全体像は、こちらでまとめています。


住宅購入にまつわる判断は、こちらでも取り上げています。


まとめ|選択肢を持てる状態にしておく


住宅購入後の転勤は、誰にでも起こりうることです。
大切なのは、どの選択肢も取れる状態にしておくことです。
貸せる立地を選び、無理のない借入額にしておく。
それだけで、辞令が出たときの選択肢は大きく広がります。
転勤になった場合も含めて、シミュレーションしませんか
伊藤FPオフィスでは、住宅購入の相談で「転勤になったらどうなるか」も含めて試算しています。
単身赴任した場合、家族で移った場合、賃貸に出した場合。
それぞれの家計がどうなるかを、ご家庭の数字でお見せします。
転勤のある会社にお勤めの方は、購入前にこの確認をしておくと安心です。
- 現状の家計・収支の整理
- 無理のない住宅ローンの借入額の試算
- 転勤・収入減など複数のシナリオでのリスク確認
- 教育費・老後資金との両立確認(キャッシュフロー表の作成)
- 購入後の保険・資産形成プランの整理
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 単身赴任なら、住宅ローン控除はそのまま受けられますか?
はい。ご家族が引き続きその家に住んでいる単身赴任であれば、控除は継続して受けられます。「生計を一にする家族が居住していること」が条件です。試算では単身赴任の3年間の総コストは675万円でしたが、これは控除63万円を受けられる前提の金額です。
Q. 住宅ローンのまま、家を賃貸に出せますか?
住宅ローンは契約者本人が住むことを前提とした契約のため、無断で賃貸に出すのは契約違反にあたる恐れがあります。最悪の場合、一括返済を求められることもあります。転勤などやむを得ない事情がある場合は、必ず事前に金融機関へ相談してください。金融機関によっては、一定期間の賃貸を認めてくれるケースがあります。
Q. 賃貸に出したら、戻ってきたときに住めなくなりませんか?
契約の種類によっては、その心配があります。普通借家契約は入居者の権利が強く保護されるため、「自分が住みたいから」という理由では退去してもらえません。戻る予定があるなら、期間の満了で確実に契約が終了する定期借家契約で貸してください。家賃はやや低くなる傾向がありますが、確実に戻れる安心のほうが重要です。
Q. 住宅ローン控除は、戻ってきたら残りの期間を全部受けられますか?
いいえ。控除の期間は延長されません。たとえば13年の控除期間のうち3年間停止した場合、受けられるのは残りの10年分だけです。年21万円の控除なら、63万円を失う計算になります。また、再開するには転勤の前に税務署へ届出をしておく必要があり、「会社からの転任の命令などやむを得ない事情」による場合に限られます。
Q. 転勤中に売却する場合、税金の特例は使えますか?
使えます。ただし期限があります。居住用財産の3,000万円特別控除は、「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却すれば適用できます。2026年8月に家を出たなら、2029年12月31日が期限です。しかも、その間に賃貸に出していても適用できます。期限を過ぎると売却益に約20%の税金がかかるため、売却益1,000万円なら約203万円の差になります。
Q. 転勤の可能性があるなら、家は買わないほうがいいですか?
一概にそうとは言えません。賃貸に出しやすい立地を選ぶ、単身赴任の費用を見込んだ借入額にしておく、といった備えがあれば購入は十分に可能です。大切なのは「どの選択肢も取れる状態にしておく」ことです。駅から遠く賃貸の需要がない物件を、借入上限まで借りて買ってしまうと、辞令が出たときに打つ手がなくなります。
Q. 空き家にしておくと、家は傷みますか?
傷みます。換気をしないと湿気がこもり、カビや結露の原因になります。水道を使わないと排水管の封水が蒸発し、悪臭や虫の侵入につながります。月1回程度の換気と通水が必要で、遠方の場合は管理サービスの利用が現実的です。費用は月8,000円前後が目安で、3年間で29万円ほどになります。この費用も含めて、空き家は最もコストが高い選択肢になります。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。金融商品の販売を行わない中立な立場で、住宅購入・保険見直し・ライフプラン設計の相談を行っています。不動産会社での実務経験を活かし、転勤や住み替えの可能性も含めて複数のシナリオで家計を確認したうえでご提案しています。
対応エリア:千葉県・東京都は対面相談可、全国オンライン対応

