「住宅ローンを組んだあとは、毎月の返済で精一杯」
「老後のことは、子どもが独立してから考えよう」
こう思っている方は少なくありません。
ただ、この先送りには大きな代償があります。
- 同じ月3万円でも、35歳開始なら約2,082万円、50歳開始なら約738万円(年4%想定の試算)
- 繰り上げ返済のリターンは「確実な住宅ローン金利分」、投資は「不確実な想定利回り」
- 住宅ローン控除を受けている期間は、繰り上げ返済のメリットが小さくなります
- 大切なのは金額の大小より、ゼロにしないことです
この記事では、住宅購入後の老後資金の準備方法と、新NISAとの両立の考え方を整理します。
こんな方に読んでほしい記事です
- 住宅ローン返済中で、老後資金の準備が後回しになっている
- 繰り上げ返済とNISA投資、どちらを優先すべきか迷っている
- 教育費と老後資金を両立できるか不安
- 月いくら積み立てればよいか知りたい
✍️ この記事の監修者
代表・監修者
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス 代表
千葉・東京エリアを拠点に、住宅購入前の家計相談・生命保険の見直し・ライフプラン設計を専門とする独立系FP。
銀行・保険会社とは利害関係のない中立な立場で、30〜40代の子育て世帯を中心に相談をお受けしています。
「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」から一緒に考えることを大切にしています。
先送りすると何が起きるのか

住宅購入後に老後の準備が遅れるのは、怠慢ではありません。
それだけ「今」の支出が大きいからです。
| 支出の種類 | 続く時期 | 金額の目安(千葉・東京エリア) |
|---|---|---|
| 住宅ローンの返済 | 購入から完済まで(35年など) | 月10万〜15万円前後 |
| 教育費 | 子どもが0〜22歳頃まで | 子ども1人あたり総額1,000万〜1,500万円(試算例) |
| 老後資金の準備 | できるだけ早く始めたい | 目標に応じて月1万〜5万円 |
この3つが重なる時期に「老後は後で」と考えるのは自然なことです。
しかし、先送りの代償は数字にするとはっきりします。
同じ月3万円でも、始める年齢でこれだけ違う
約2,082 万円に
約738 万円に
15年の差が、約1,344万円の違いを生む計算です
※ 毎月3万円を65歳まで積み立て、年4%で運用できたと仮定した試算です。想定利回りはあくまで仮定であり、運用成果を保証するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。
| 積立を始める年齢 | 65歳までの期間 | 積み立てた元本 | 運用後の金額(年4%想定) |
|---|---|---|---|
| 35歳 | 30年 | 1,080万円 | 約2,082万円 |
| 40歳 | 25年 | 900万円 | 約1,542万円 |
| 45歳 | 20年 | 720万円 | 約1,100万円 |
| 50歳 | 15年 | 540万円 | 約738万円 |
| 55歳 | 10年 | 360万円 | 約442万円 |
※ 同上の条件による試算です。実際の運用成果は市場環境により変動します。
「子どもが独立してから」では、積立期間が10年を切ることがあります。
35歳で購入し、子どもの独立が57〜60歳頃なら、老後まで残り5〜8年です。
老後に必要な金額の考え方

目標を決めるために、まず必要額の考え方を整理します。
年金と生活費の差から考える
厚生年金に加入している夫婦の場合、標準的な年金受給額は月額23万円台とされています。
一方、夫婦2人の老後の最低日常生活費は月額23万円台という調査結果があります。
最低限の生活なら、差はわずかです。
問題は、そこにゆとりを足したときです。
| 生活のスタイル | 月の生活費 | 年金との差 | 25年間の不足額 |
|---|---|---|---|
| 最低限の生活 | 約23.9万円 | 月0.7万円 | 約210万円 |
| 少しゆとりのある生活 | 約25万円 | 月1.8万円 | 約540万円 |
| 旅行や趣味も楽しむ生活 | 約30万円 | 月6.8万円 | 約2,040万円 |
※ 年金を月23.2万円と仮定した場合の試算です。年金額は加入期間・収入により大きく異なります。ご自身の見込み額は「ねんきんネット」で確認できます。生活費は生命保険文化センターなどの調査を参考にした目安です。
「老後2,000万円問題」という言葉がありましたが、必要額は生活スタイルによって大きく変わります。
何にお金を使いたいかで、目標額は決まります。
持ち家には大きな強みがあります
住宅ローンを完済していれば、老後に家賃はかかりません。
月10万円の家賃が不要になれば、老後25年間で3,000万円の支出削減になります。
ただし固定資産税と修繕費は続きます。年20万〜40万円ほどは見込んでおきましょう。
必要額を出す3ステップ
- 老後の生活費を見積もる — 現在の生活費の80〜90%が目安(住居費が減るため)
- 年金の見込み額を確認する — 「ねんきんネット」で試算できます
- 差額×老後の年数を計算する — 65歳から85〜90歳までの20〜25年で計算
たとえば生活費25万円・年金20万円・老後25年なら、(25万−20万)×300ヶ月=1,500万円が目安になります。
ここから退職金の見込み額を差し引けば、自分で準備すべき金額が出ます。
【重要】繰り上げ返済とNISA、どちらを優先すべきか
住宅ローンを返しながら投資をすることに、抵抗を感じる方は多くいます。
「借金があるのに投資はおかしいのでは」という感覚です。
この判断を整理するために、両者の性質の違いを見てみましょう。
- リターンは住宅ローン金利分
- 結果が確実
- 元本割れがない
- 使ったお金は戻せない
- リターンは不確実
- 元本割れの可能性がある
- 必要なときに引き出せる
- 運用益が非課税になる
ここが最も大切な点です。
繰り上げ返済のリターンは「住宅ローンの金利」と同じです。
金利1.0%のローンを繰り上げ返済すれば、確実に1.0%分の利息を減らせます。
一方、投資のリターンは市場次第で、増えることも減ることもあります。
同じ720万円を投じた場合の比較
借入3,000万円・金利年1.0%・35年のローンがある家庭で、月3万円を20年間投じた場合を比べます。
| 使い道 | 投じた金額 | 効果 | 確実性 |
|---|---|---|---|
| 繰り上げ返済 | 720万円 | 利息軽減 約161万円 完済が約9年早まる | 確実 |
| NISA(年3%想定) | 720万円 | 増加分 約265万円 | 不確実 |
| NISA(年4%想定) | 720万円 | 増加分 約380万円 | 不確実 |
| NISA(増えなかった場合) | 720万円 | 増加分 0円 | — |
※ 繰り上げ返済は期間短縮型を毎年36万円行った場合の試算です。NISAの想定利回りは仮定であり、運用成果を保証するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。
住宅ローン控除を受けている期間は注意が必要です
控除は年末のローン残高に応じて計算されます。
繰り上げ返済で残高を減らすと、控除額も減ります。
控除を受けている間は、繰り上げ返済の実質的なメリットが小さくなることがあります。
控除の期間が終わってから、まとめて繰り上げ返済するという考え方もあります。
どちらを優先すべきか
判断の目安を整理すると、次のようになります。
繰り上げ返済を優先したほうがよい場合
- 住宅ローンの金利が高い(1.5%以上など)
- 元本割れの可能性を受け入れられない
- 完済年齢が定年を超えている
- 住宅ローン控除の期間が終わっている
NISAでの積立を優先しやすい場合
- 住宅ローンの金利が低い(1.0%前後など)
- 老後まで20年以上の時間がある
- 住宅ローン控除を受けている期間中
- 手元資金を残しておきたい(投資は必要なときに引き出せる)
FP伊藤ご相談でお伝えしているのは、「どちらか一方を選ぶ必要はない」ということです。
毎月の積立は続けながら、ボーナスなどまとまったお金が入ったときに繰り上げ返済をする。
このリズムなら、多くのご家庭が無理なく続けられます。
大切なのは、どちらかを完全にゼロにしないことです。
特に老後資金は、時間そのものが最大の武器になりますから。
月いくら積み立てればよいのか
目標額と期間が決まれば、毎月の積立額は逆算できます。
| 目標額 | 20年で達成 | 25年で達成 | 30年で達成 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 月2.7万円 | 月1.9万円 | 月1.4万円 |
| 1,500万円 | 月4.1万円 | 月2.9万円 | 月2.2万円 |
| 2,000万円 | 月5.5万円 | 月3.9万円 | 月2.9万円 |
| 3,000万円 | 月8.2万円 | 月5.8万円 | 月4.3万円 |
※ 年4%で運用できたと仮定した場合の試算です。想定利回りは仮定であり、運用成果を保証するものではありません。
表を見ると分かるのは、期間が長いほど毎月の負担が軽くなるということです。
2,000万円を目標にする場合、20年なら月5.5万円必要ですが、30年なら月2.9万円で届く計算になります。
住宅ローン返済中の配分の順番
手取り月収から、次の順番で配分すると整理しやすくなります。
- 住宅ローンの返済額(最優先)
- 生活費(食費・光熱費・通信費・保険料など)
- 生活防衛資金の補充(不足している場合は月1〜2万円)
- 教育費の積立(学年に応じて金額を調整)
- 残りを老後資金へ(月1万円からでも意味があります)
月1万円でも意味があります
「まとまった金額でないと意味がない」と考える必要はありません。
月1万円を25年続けると、元本300万円。年4%で運用できた場合は約514万円になる計算です。
完璧な計画より、無理なく続けられる金額から始めるほうがずっと大切です。
目的別に置き場所を分ける
お金は、使う時期によって置き場所を変えます。
| 目的 | 使う時期 | 適した置き場所 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 生活防衛資金 | いつ必要になるか分からない | 普通預金 | 生活費の3〜6ヶ月分。元本を減らさない |
| 教育費 | 数年〜10年以内 | 定期預金・学資保険など | 使う時期が決まっているため、元本の確保を優先 |
| 老後資金 | 20〜30年後 | 新NISA・iDeCo | 長期間あるため、値動きのある商品も選択肢になる |
教育費と老後資金を同じ口座で管理しないでください。
「老後のため」と思っていたお金が、進学費用で消えてしまうケースは珍しくありません。
iDeCoも選択肢になります
老後資金の準備には、iDeCo(個人型確定拠出年金)という制度もあります。
掛金が全額所得控除になるため、所得税と住民税の負担を軽くできる点が特徴です。
ただし、原則60歳まで引き出せません。
教育費など途中で使う可能性があるお金には向きません。
老後資金と割り切れる分だけをiDeCoに、それ以外はNISAに、という使い分けが基本になります。
年代別・住宅購入後の進め方


どの年代でも共通しているのは、積立をゼロにしないことです。
金額の大小より、続けることのほうが結果に効いてきます。
老後にいくら必要かは、こちらで数字をもとにまとめています。


まとめ|ゴールを決めて、逆算して、続ける


「住宅ローンを抱えながら老後の準備なんてできるの?」という不安は、数字にすると輪郭が見えてきます。
まず老後に必要な金額を出し、今月からできる積立額を一つ決めてみてください。
わが家の配分を、数字で組み立てませんか
住宅ローンの返済・教育費・老後資金。
この3つのバランスは、ご家庭の収入と支出によって変わります。
伊藤FPオフィスでは、キャッシュフロー表を使って配分を設計しています。
- 現状の家計・収支の整理
- 住宅ローン返済・教育費・老後資金の配分設計
- キャッシュフロー表による将来の家計の見える化
- 繰り上げ返済と積立のバランスの検討
- 金利上昇・収入減シナリオでの確認
千葉県市川市を拠点に、対面・オンラインでご相談をお受けしています。
よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 住宅ローン返済中でも新NISAを始めるべきですか?
生活防衛資金(生活費3〜6ヶ月分)を確保できているなら、少額からでも始める価値があります。老後資金は時間が最大の武器になるためです。ただし住宅ローンの金利が高い場合や、元本割れを受け入れられない場合は、繰り上げ返済を優先する判断も合理的です。
Q. 繰り上げ返済と投資、結局どちらが得ですか?
性質が違うため、単純に比較できません。繰り上げ返済は「住宅ローンの金利分」を確実に節約できます。投資は想定より増えることも減ることもあります。金利1.0%のローンなら確実に1.0%、投資は不確実な期待値、という違いを踏まえて判断してください。
Q. 教育費と老後資金、どちらを優先すべきですか?
どちらか一方ではなく、目的と時期に合わせて並行して準備します。教育費は使う時期が決まっているため元本を確保できる方法で、老後資金は時間があるため長期運用に向いた方法で。置き場所を分けることが大切です。
Q. iDeCoとNISA、どちらを使うべきですか?
iDeCoは掛金が全額所得控除になる分、税負担を軽くできます。ただし原則60歳まで引き出せません。教育費など途中で使う可能性があるお金はNISA、老後資金と割り切れる分はiDeCo、という使い分けが基本です。
Q. 住宅ローン完済後に一気に積み立てるのでは遅いですか?
完済が60歳近くになると、積立期間が5年程度しか残りません。新NISAは年間360万円まで投資できるため集中投資は可能ですが、期間が短いと運用による増加は限られます。完済前から少額でも始めておくほうが有利です。
Q. 老後の必要額はどうやって計算すればいいですか?
「老後の生活費 × 老後の年数 − 年金の総額 − 退職金」で概算できます。生活費は現在の80〜90%が目安、年金の見込み額は「ねんきんネット」で確認できます。持ち家で完済していれば家賃がかからない分、賃貸より必要額は小さくなります。
この記事の監修者


証券会社・不動産会社・保険会社での実務を経て、FP歴16年。2023年1月に独立し、千葉県市川市で独立系FP事務所を開設。金融商品の販売を行わない中立な立場で、住宅購入・保険見直し・ライフプラン設計の相談を行っています。住宅ローン・教育費・老後資金の配分は、キャッシュフロー表で見える化してからご提案しています。
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