「老後2000万円問題」という言葉が広く知られています。
ただし、元の報告書は「2,000万円」と言い切っていません。
原文には「1,300万円〜2,000万円」と幅で書かれています。
そして元データは2017年の家計調査です。
最新の数字で計算し直すと、金額が変わります。
- 報告書の原文は「1,300万円〜2,000万円」。幅があります
- 同じ報告書に「当然不足しない場合もありうる」と書かれています
- 元データは2017年で、不足は月54,520円でした
- 2024年の家計調査では月34,059円。当時の62%です
- 不足額は年齢とともに減ります(65〜69歳は75歳以上の2.15倍)
- 年齢別に積み上げると約942万円になります
- ただしこの収支は持家率95.8%が前提です
こんな方に読んでほしい記事です
- 2,000万円という数字の根拠を知りたい
- 自分にいくら必要なのか判断したい
- 住宅購入と老後資金の両立が不安
- 漠然とした不安を、数字に変えたい
報告書は「2,000万円」と言い切っていません
まず、出所を正確に押さえます。
「金融庁が発表した報告書」ではありません
正しくは金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書です(令和元年6月3日)。金融庁に置かれた審議会の作業部会が取りまとめたもので、金融庁の見解として発表されたものではありません。この記事の以前の版では「金融庁が発表した」と書いていたため訂正しました。
そして原文は、こう書かれています。
夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる。
この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。
出所:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)
「1,300万円〜2,000万円」という幅で書かれています。
そして「当然不足しない場合もありうる」とも書かれています。
報告書の主旨は「2,000万円を貯めなさい」ではありません。
原文にはこう続きます。
「重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである」
つまり「自分の数字で考えてみてください」という内容です。
2,000万円という金額だけが広まったのは、報告書の意図とは少しずれています。
FP伊藤ご相談で「2,000万円貯めないといけないのでしょうか」と聞かれます。
この数字は、平均の不足額を単純に30年かけたものです。
ご家庭の収入・支出・住まい・働き方で、必要な額はまったく違います。
報告書自身が「当然不足しない場合もありうる」と書いています。
まず自分の数字を出すところから始めてください。
元データは2017年。2024年で計算し直すと
報告書が使ったのは、総務省の家計調査です。
2017年のデータでした。
当時と最新の数字を並べます。
| 2017年(報告書の前提) | 2024年(最新) | |
|---|---|---|
| 実収入 | 209,198円 | 252,818円 |
| 可処分所得 | - | 222,462円 |
| 支出 | 263,718円(実支出) | 256,521円(消費支出) |
| 毎月の不足額 | 54,520円 | 34,059円 |
出所:2017年は金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)の記載(総務省「家計調査」)。2024年は総務省統計局「2024年(令和6年)家計の概要」参考4の「65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)」です。2024年の不足額は、可処分所得222,462円から消費支出256,521円を引いた額です(平均消費性向115.3%)。2017年は実収入から実支出(消費支出+税・社会保険料)を引いた額で、計算方法は同じ考え方になります。
年金額の引き上げなどで、収入側が増えています。
この金額を30年続けた場合を計算します。
| 前提 | 20年 | 30年 |
|---|---|---|
| 2017年の不足額(月54,520円) | 約1,308万円 | 約1,963万円 |
| 2024年の不足額(月34,059円) | 約817万円 | 約1,226万円 |
※ 月額を単純に年数分かけた金額です。2017年の計算は報告書の「20年で約1,300万円、30年で約2,000万円」を再現しています。
同じ計算方法でも、約1,226万円になります。
報告書の約2,000万円より、770万円ほど小さい金額です。
「だから安心」という話ではありません
家計調査は毎年の平均で、年によって動きます。物価が上がれば支出も増えます。この数字も「平均を単純計算したもの」にすぎません。次の章で、この計算方法そのものに問題があることを示します。
不足額は、年齢とともに減ります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
1つの月額を30年かけ続ける計算は、実態と合いません。
年齢別に見ると、不足額が変わります。
出所:総務省統計局「2024年(令和6年)家計の概要」参考4 表1。黒字の欄がマイナスの金額です。可処分所得から消費支出を引いた差額と一致します。
年齢が上がるほど、支出が減っていきます。
理由は支出の減り方です。
65〜69歳の消費支出は月311,281円ですが、75歳以上では242,840円になります。
月68,441円の差です。
では、年齢別に積み上げて計算してみます。
年齢別に積み上げると、約285万円少なくなります
出所:総務省統計局「2024年(令和6年)家計の概要」参考4 表1の年齢階級別の黒字額から計算しました。75歳以上の金額を75〜94歳の20年間に当てはめた概算です。物価の変動・医療費や介護費の増加は含みません。
この積み上げ計算にも限界があります。
・75歳以上の支出が少ないのは、活動量が減ることに加えて収入が少ない世代だからという面もあります
・医療費・介護費は年齢とともに増えます
・物価が上がれば、将来の支出はこの金額では収まりません
平均の数字は、どう計算しても平均です。
金額を知る意味は、不安を具体的な数字に変えることにあります。
そのうえで、自分の数字を出す必要があります。
この収支は「持ち家」が前提です
もうひとつ、見落とされやすい前提があります。
家計調査の収支は、ほぼ持ち家の世帯の数字です。
つまり住居費がほとんど入っていません。
賃貸で老後を迎える場合、家賃が丸ごと乗ります。
家賃を30年払い続けた場合の単純な合計です。持家率は総務省統計局「2024年(令和6年)家計の概要」参考4 表1によります。持ち家でも固定資産税・修繕費・管理費はかかるため、約942万円がそのまま持ち家の負担というわけではありません。
2,000万円問題より、住まいをどうするかのほうが金額が大きくなります。
家賃月10万円なら、30年で3,600万円です。
老後の住まいは、現役のうちに決まります
65歳を過ぎてから住宅ローンを組むのは難しくなります。賃貸で老後を迎えるなら、家賃を払い続ける資金が必要です。持ち家なら住居費は維持費だけになりますが、そのかわり現役のうちに返済を終える必要があります。どちらが有利かはご家庭によって変わります。
賃貸と持ち家の老後の比較は、こちらで計算しています。


報告書が同時に示していた金融資産の平均
報告書には、もうひとつの数字が載っています。
65歳時点で、平均してどれだけ金融資産を持っているかです。
| 世帯の形 | 65歳時点の金融資産の平均 |
|---|---|
| 二人以上世帯 | 2,252万円 |
| 単身(男性) | 1,552万円 |
| 単身(女性) | 1,506万円 |
出所:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)(総務省「平成26年度全国消費実態調査」)。平均値であり、中央値はこれより低くなります。住宅ローンなどの負債を抱えている場合は、差し引いた純額で見る必要があると報告書も指摘しています。
平均で見れば、2,000万円を超えています。
報告書が示していたのは、次の2つです。
・平均の不足額を単純計算すると 1,300万〜2,000万円
・65歳時点の金融資産の平均は 2,252万円(二人以上世帯)
つまり「2,000万円足りない」という内容ではありません。
平均値だけを並べれば、むしろ足りている形です。
問題は、平均が実態を表さないことです。
金融資産がほとんどない世帯もあり、報告書も中央値や負債を考える必要があると指摘しています。
だから「自分の数字で考えてほしい」という結論になっています。
平均値は、実態より高く出ます
金融資産の平均は、一部の資産が多い世帯に引っ張られます。中央値(真ん中の人の金額)は、平均よりかなり低くなります。「平均が2,252万円だから自分も大丈夫」とは考えないでください。確認すべきは、ご自身の見込み額です。
年金をいつから受け取るかで、一生の受取額が変わります。


では、自分はいくら必要なのか
ここまで平均の数字を見てきました。
自分の金額は、3つを出せば計算できます。
- 年金の見込み額(毎年届く「ねんきん定期便」または日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できます)
- 老後の生活費の見込み(いまの生活費から、通勤費・教育費・住宅ローンを引いた金額が出発点になります)
- 住まいの前提(持ち家なら維持費、賃貸なら家賃。ここが金額をいちばん左右します)
1と2の差が毎月の不足額です。
そこに3を足すと、必要な金額が出ます。
参考に、年金の満額を確認しておきます。
| 年額 | 月額 | |
|---|---|---|
| 老齢基礎年金の満額(2026年度) | 847,300円 | 約70,600円 |
※ 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」によります。40年間保険料を納めた場合の満額です。会社員・公務員は、これに厚生年金が加わります。この記事の以前の版では「2023年時点で約6.5万円」と書いていましたが、年度が古いため最新の金額に差し替えました。
自営業・フリーランスの方は、ここが上限です。
夫婦2人で満額なら、月約14万1,200円になります。
会社員の方より、準備すべき金額が大きくなります。
準備の方法は、順番で考えます
金額が出たら、どう用意するかを考えます。
- まず、支出の見直し
-
固定費を下げると、現役のうちの積立額が増え、老後の生活費も下がります。2つの効果があるため、最初に手をつける価値があります。
- 次に、働く期間
-
65歳以降も働けば、不足が始まる時期が後ろにずれます。厚生年金に加入して働けば、年金額そのものも増えます。
- そのうえで、積立
-
NISA・iDeCoには税制上の優遇があります。ただし投資にはリスクがあり、元本が保証されるものではありません。目的と期間を決めてから、金額を決めてください。
※ 本記事は特定の金融商品を勧めるものではありません。制度の内容・要件は改正されることがあるため、最新の内容は金融庁・各金融機関でご確認ください。
NISAとiDeCoの仕組みは、こちらで解説しています。


住宅購入と老後資金の両立は、こちらでまとめています。





ご相談では、老後資金だけを切り離して考える方が多いです。
けれども老後資金は、住宅ローンと教育費が終わったあとの話です。
この2つをどう終えるかで、老後に残る額が決まります。
完済年齢が70歳を超えていれば、老後資金に回す期間がありません。
住宅購入の段階で、ここまで見ておく必要があります。
まとめ|平均の数字を、自分の数字に置き換えてください
「2,000万円」という数字は、平均の不足額を単純計算したものです。
最新のデータで計算し直すと、金額は変わります。
そして年齢別に見れば、さらに変わります。
住まいをどうするかで、もっと変わります。
報告書自身が「自分の数字で考えてほしい」と書いています。
数字が出れば、不安の大きさも決まります。
老後に残る金額を、1枚の表で確かめませんか
老後資金は、住宅ローンと教育費が終わったあとの話です。
この2つをどう終えるかで、老後に残る額が決まります。
完済年齢が70歳を超えていれば、老後資金に回す期間がありません。
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よくある質問
気になる質問をタップすると、回答が開きます。
Q. 老後2000万円問題とは何ですか?
2019年6月の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発端です。夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯で毎月の不足額の平均が約5万円あり、20〜30年なら1,300万円〜2,000万円になるという記載が広まりました。金融庁が発表したものではなく、審議会の作業部会の報告書です。
Q. 報告書は「2,000万円貯めなさい」と言っているのですか?
言っていません。原文は「1,300万円〜2,000万円」という幅のある書き方で、「あくまで平均の不足額から導きだしたもの」「当然不足しない場合もありうる」と明記されています。結論は「公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである」という内容です。
Q. 最新のデータだと、いくらになりますか?
2024年の家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の不足額は月34,059円です(可処分所得222,462円−消費支出256,521円)。報告書の前提だった2017年の54,520円に対して62%の水準です。同じ計算方法で30年なら約1,226万円になります。
Q. なぜ不足額が減ったのですか?
収入側が増えたことが大きいです。実収入は2017年の209,198円から2024年の252,818円になっています。年金額の引き上げや、65歳以降も働く方が増えたことなどが考えられます。ただし家計調査は毎年の平均で、年によって動きます。
Q. 不足額は年齢によって違いますか?
違います。年齢が上がるほど減ります。2024年の年齢階級別では、65〜69歳が月44,945円、70〜74歳が月28,419円、75歳以上が月20,892円です。65〜69歳は75歳以上の2.15倍になります。1つの月額を30年かけ続ける計算は、実態と合いません。
Q. 年齢別に積み上げると、いくらになりますか?
65歳から94歳までの30年間なら約942万円です(65〜69歳270万円+70〜74歳171万円+75〜94歳501万円)。単純計算の約1,226万円より、約285万円少なくなります。ただし医療費・介護費の増加や物価の変動は含んでいません。
Q. この数字は誰にでも当てはまりますか?
当てはまりません。家計調査の収支は持家率95.8%の世帯の数字で、住居費がほとんど入っていません。賃貸で老後を迎える場合、家賃が丸ごと乗ります。家賃月10万円を30年なら3,600万円で、合計は約4,542万円になります。
Q. 2,000万円問題より大きい問題はありますか?
住まいをどうするかです。家賃月10万円を30年払えば3,600万円で、2,000万円を大きく超えます。65歳を過ぎてから住宅ローンを組むのは難しくなるため、老後の住まいは現役のうちに決まります。
Q. 65歳時点で、みんないくら持っているのですか?
報告書は65歳時点の金融資産の平均保有状況として二人以上世帯2,252万円、単身男性1,552万円、単身女性1,506万円という数字を示しています。ただし平均値であり、中央値はこれより低くなります。負債がある場合は差し引いて見る必要があると報告書も指摘しています。
Q. 国民年金は月いくらですか?
老齢基礎年金の満額は年847,300円(月約70,600円)です(2026年度)。40年間保険料を納めた場合の金額です。夫婦2人がともに満額なら月約14万1,200円になります。会社員・公務員は、これに厚生年金が加わります。
Q. 自分の必要額はどう計算しますか?
3つを出してください。①年金の見込み額(「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」で確認)、②老後の生活費の見込み(いまの生活費から通勤費・教育費・住宅ローンを引く)、③住まいの前提(持ち家なら維持費、賃貸なら家賃)。①と②の差が毎月の不足額で、そこに③を足した金額が必要額の目安になります。
Q. 何から準備すればよいですか?
まず固定費の見直しです。現役のうちの積立額が増え、老後の生活費も下がるという2つの効果があります。次に働く期間。65歳以降も厚生年金に加入して働けば、年金額そのものも増えます。そのうえで積立を考えます。NISA・iDeCoには税制上の優遇がありますが、投資にはリスクがあり元本が保証されるものではありません。
この記事の監修者


FP業界で16年、住宅購入とお金の相談に携わってきました。
千葉県市川市を拠点に、子育て世帯の住宅購入前診断とライフプラン作成を行っています。
家計全体の視点から、ご相談をお受けしています。
本記事の出所・試算条件をみる
【報告書】金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)によります。金融庁に置かれた審議会の作業部会が取りまとめたもので、金融庁の見解として発表されたものではありません。引用した「1,300万円〜2,000万円」「当然不足しない場合もありうる」「公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみること」はいずれも同報告書の原文です。元データは総務省「家計調査(二人以上世帯)」で、不足額54,520円から20年1,308万円・30年1,963万円となり、報告書の記載(約1,300万円・約2,000万円)を再現できます。
【65歳時点の金融資産】同報告書が示す総務省「平成26年度全国消費実態調査」の数値です。平均値であり、中央値はこれより低くなります。
【2024年の家計収支】総務省統計局「2024年(令和6年)家計の概要」参考4によります。65歳以上の夫婦のみの無職世帯は実収入252,818円・可処分所得222,462円・消費支出256,521円・平均消費性向115.3%。不足額34,059円は可処分所得から消費支出を引いた額です。年齢階級別(二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯)は65〜69歳が可処分所得266,336円・消費支出311,281円・黒字▲44,945円、70〜74歳が240,596円・269,015円・▲28,419円、75歳以上が221,948円・242,840円・▲20,892円です。持家率は65歳以上計95.8%(65〜69歳96.3%・70〜74歳96.3%・75歳以上95.4%)。
【積み上げ計算】年齢階級別の黒字額をもとに、75歳以上の金額を75〜94歳の20年間に当てはめた概算です。物価の変動、医療費・介護費の増加は含みません。家計調査は毎年の平均であり、年によって金額は動きます。
【家賃を足した金額】家賃を30年払い続けた場合の単純な合計です。持ち家でも固定資産税・修繕費・管理費はかかります。
【年金額】日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」による老齢基礎年金の満額(40年間納付した場合)です。実際の見込み額は「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」でご確認ください。
【免責】本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入や契約を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本が保証されるものではありません。制度の内容・要件は改正されることがあります。必要な金額はご家庭の状況によって大きく異なります。個別のご相談は伊藤FPオフィスまでお問い合わせください。

